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[ 公募研究(2007-2008) ]

A01:分子凝集構造のダイナミクス(公募研究2007-2008)

応力場に置かれた高分子ゲルのスローダイナミクス 
[ 研究代表者 ]
浦山健治
京都大学
工学研究科材料化学専攻
准教授

研究内容

分子量無限大の架橋高分子であるゲルは溶媒を多量に含み、弾性率は非常に低いが流動しないソフトな固体として振る舞う。ゲルの平衡膨潤状態は外力に対して敏感であり、外力下でさらに膨潤したり、あるいは収縮したりする現象が様々な形で観察されている。このため、ゲルをゆっくりと変形させると、破壊モード、ポアソン比、応力-ひずみ挙動などの力学的性質に顕著な時間依存性が現れる。本研究は、ゲル特有のスローダイナミクスに由来する力学的性質の時間依存性を実験によって解明し、その定量的な理解を目的とする。例えば、最近の予備実験では、ゲルを超低速で圧縮していくとゲル中の水の大規模な流出が起こり破壊せずに初期長の95%以上まで圧縮できてしまう一方で、速い速度で圧縮すると小さなひずみで脆性的に破壊してしまう現象が観察されている。この現象は、圧縮速度とゲルの拡散のタイムスケールの相関が破壊モードにまで著しい影響を与えることを示唆している。こうした挙動は、ゲルのソフトアクチュエータとしての設計指針や食品ゲルの咀嚼などの実用的な問題にも密接にかかわっているだろう。

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絡みあった高分子マトリックス中に分散した球状ミクロドメインの配列を支配する物理 
[ 研究代表者 ]
櫻井伸一
京都工芸繊維大学
大学院工芸科学研究科
准教授

研究内容

ブロック共重合体とホモポリマーをブレンドすることによって、球状ドメインの面心立方格子(fcc)配列を実現する。すなわち、bccしか形成しない球状ドメインのウィグナーサイツセルの辺境の隙間地帯にホモポリマーを添加してfccを形成させる。その際に使用するホモポリマーの分子量を変えることによって、絡み合いの程度を変化させ、fcc形成の障害の度合いを調べる。また、形成されたfcc配列が温度上昇とともに乱れ始める温度がマトリックスホモポリマー鎖の絡み合いの程度によって影響を受けて高温シフトするのかどうかを調べる。もし転移温度に差が見られない時は、転移の速さ(時定数)を小角X線散乱法によって調べる。このため、ブレンドするホモポリマーの分子量を、溶媒なみの低分子量のものから、かなり絡み合いの多いもの(分子量で100万程度)まで種々の試料で実験を行なう。

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不均一系の膨潤における非平衡構造
[ 研究代表者 ]
横山英明
東京大学大学院
新領域創成科学研究科
准教授

研究内容

ブロックコポリマー薄膜を選択溶媒に浸漬した場合、薄膜は界面のエネルギーを最小化するために表面組成を変化させ、また、親和性の高いドメインを選択的に膨潤させることが予想される。最終的にはミセル化して溶解することもありえるが、初期の構造から直接ミセルには変化できず、その過程で多くの非平衡構造を経由すると考えられる。言い換えれば、膨潤に伴い、浸漬前の構造から新しい平衡構造へ向かって、複雑なキネマティックパスウェイを経た構造変化が期待される。本研究では、このようなキネマティックパスウェイ上にどのような非平衡構造が存在するか明らかにし、また、そのような非平衡構造をテンプレートした多孔体構造を創出することを目的とした研究を行う。

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高分子・超分子ポリマー溶液系における会合体形成とレオロジー挙動
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
佐藤尚弘
大阪大学
大学院理学研究科
教授
四方俊幸
大阪大学
大学院理学研究科
准教授

研究内容

会合体形成能を有する高分子や低分子界面活性剤等は、溶液中で様々なミセルや超 分子ポリマーを形成し、レオロジーコントロール剤、コロイド安定化剤、ドラッグデ リバリーシステムなど、様々な分野で応用されている。我々の研究グループでは、会 合性高分子・超分子ポリマーのキャラクタリゼーションの方法論を確立させ、それら 超分子集合体溶液の会合体特性とレオロジーをはじめとする諸物性との間の関係を分 子論に立脚して理解することを目的としている。具体的な研究対象は以下の系である:(1)低分子界面活性剤が水溶液中で形成するひも状ミセル(2)水素結合能を有する低分子ゲル化剤が有機溶媒中で形成する長鎖会合体(3)両親媒性高分子電解質(ランダム共重合体)が水溶液中で形成するミセル(4)高分子酸と高分子アミン間で形成される高分子複合体(5)熱変性させたタンパク質や多糖の会合体およびタンパク質と多糖の複合体(6)両末端成長高分子リビングアニオンが非極性溶媒中で形成する逆ミセル

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物理架橋相互侵入網目の構造とダイナミックス
[ 研究代表者 ]
高橋良彰
九州大学
先導物質化学研究所
准教授

研究内容

物理架橋IPNの構造制御法の基礎的な知見を得ることを目的として、互いに相溶で、それぞれ微結晶と二価のカチオンを抱き込んだegg box junctionが架橋点となりゲルを形成する、ポリビニルアルコール(PVA)とポリアルギン酸ナトリウム(ALG)系を中心に、その架橋構造とレオロジー的性質を検討する。この系はALG重量分率が20%弱のからみ合いが粗な条件で各架橋構造がほぼ独立に制御できるIPNであることをすでに報告した。ゲル化の順序、温度履歴、流動場等の影響を、レオロジー測定を主な測定手段としてより詳細に検討する。これと平行して、新たなモデル系としてゲル化が競争的に起きる系を、水素結合性、結晶性を有する天然高分子を中心に探索し、様々な条件によるIPNの構造形成とレオロジー的性質の関係を明らかにしていく。

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サーモトロピック液晶に特異的なIm3mキュービック相
[ 研究代表者 ]
齋藤一弥
筑波大学大学院
数理物質科学研究科
教授

研究内容

比較的低分子の液晶において、高分子やリオトロピック液晶では見出されていない、立方対称(空間群、Im3m)をもつ多重連結高次構造が発現する。本研究では、低分子化合物の分子は数え得るという特徴に留意し、Im3m相の構造ならびに特異な構造に起因する物性異常と相転移ダイナミクスを明らかにすることを目的とする。低分子であるという特徴を生かし、Im3m相と隣接するジャイロイド相の分子凝集構造を明らかにし、高分子やリオトロピック液晶との比較を通じてIm3m相の特殊性とそれをもたらす普遍的メカニズムを明らかにする。また、温度変化に伴ってジャロイド相→Im3m相の相転移をする化合物と逆の Im3m相→ジャロイド相の相転移を起こす化合物があることを利用し、これらについて相転移点で物性を詳細に比較し、特異な構造に起因する物性異常とそれと関係した相転移ダイナミクスを解明にする。

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界面分子鎖ダイナミクスとナノヒーリング発現 
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
田中敬二
九州大学
工学研究院
准教授
長村利彦
九州大学
工学研究院
教授

研究内容

一般に、高分子表面に存在する分子鎖はその内部と比較して動きやすい。したがって、系の温度を適切に設定すれば、内部は凍結したまま表面に存在する分子鎖あるいはセグメントのみを動かすことが可能となる。これまで、二枚の高分子膜を貼り合わせ、その界面をナノレベルで発展させることで接着力が発現することを明らかにしている。本研究では、上述の概念を発展させ被着面積もナノサイズとした現象、「ナノヒーリング」、を理解し、制御することを目的とする。期間内には、ナノ接着力の測定法の確立、被着界面近傍の階層的分子運動特性の評価、また、界面非平衡ダイナミクスと接着力発現の関係を明らかにし、ナノヒーリングの機構を分子レベルで解明する。

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A02:構造転移のダイナミクス(公募研究2007-2008)

脂質2分子膜相分離構造の側方圧依存性とラフト形成機構の解明
[ 研究代表者 ]
濱田 勉
北陸先端科学技術大学院大学
マテリアルサイエンス研究科
助教

研究内容

生命の内外環境を隔てる細胞膜(脂質2分子膜)は、多様な構造体形成および融合・分裂等の動的構造転移を可能とするソフトな膜境界を提供している。近年、細胞膜内に存在するミクロドメイン構造(脂質ラフト)がシグナル伝達や小胞輸送などの機能発現の場として注目され、その物性が生体モデル膜(多成分リポソーム)を用いた研究により調べられてきている。本研究では、生体環境パラメーターとして膜内「側方圧」に着目し、脂質膜ミクロドメイン構造形成メカニズムの解明を目指す。集光レーザー場、マイクロマニピュレーション等の実験手法を用いて脂質2分子膜の側方圧をコントロールし、相分離ドメインパターンに対する側方圧依存性を決定する。そして、細胞膜同様の2分子膜内外層成分の非対称分布を備えた細胞模倣系へと発展させ、側方圧バランスがドメイン構造の安定性に与える影響を明らかにする。

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外来物質との相互作用や外場による生体膜のトポロジー変化のダイナミクスとメカニズム
[ 研究代表者 ]
山崎昌一
静岡大学
創造科学技術大学院
教授

研究内容

生体系のソフトマターの典型例である生体膜や脂質膜は、外来物質との相互作用の結果、膜自身が電場や応力などを発生して非平衡状態に達し、膜のトポロジー変化や構造変化を起こすことが多い。本研究では、外来物質との相互作用や外場により生じる非平衡状態での生体膜/脂質膜のトポロジー変化を実験的に研究し、そのキネティックスパスウエイやメカニズムを解明することを目的とする。特に、次の2つの生理的に重要な生体膜/脂質膜のトポロジー変化を研究する。(1)抗菌性ペプチドと脂質膜の相互作用により脂質膜中にポア(小孔)が形成されるが、その素過程や物理的要因を詳細に解析し、そのメカニズムを解明する。(2)2分子膜の液晶相(Lα相)の多重層リポソームとキュービック相の間の相転移や小さな一枚膜のリポソーム(LUV)からキュービック相への構造転移が、イオンやペプチドと脂質膜の相互作用により誘起される。これらの構造転移の条件や素過程、及びそのメカニズムを研究する。

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微細空間における2成分液体の構造安定性
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
栗原和枝
東北大学
多元物質科学研究所
教授
水上雅史
東北大学
多元物質科学研究所
講師

研究内容

液体の厚みがナノメートルレベル(分子サイズの数倍程度)まで減少すると、閉じ込め及び界面の効果により、規則構造形成や粘度の劇的な上昇など、バルクとは大きく異なる特性を示すことが知られている。最近、表面力装置などのナノ計測法の発展により、このような束縛液体を分子レベルで実験的に研究することが可能となってきた。本研究では我々が開発したナノ共振ずり測定法とFECO分光法の同時測定により、ナノメートルレベルの隙間に閉じ込められた2成分液体の静的・動的構造を調べ、閉じ込め及びせん断という外場の影響下で発現する構造とダイナミクスの理解と制御を目的とする。試料としては主に液晶‐色素2成分系を用い、ナノ共振ずり測定より2成分液体薄膜の構造化挙動を、FECO分光法より2成分液体薄膜中の組成と配向を評価する。さらに、計算機シミュレーションから構造化挙動を決定する因子(分子構造、組成、相溶性、表面との親和性など)を検討する。

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高分子電解質の孤立高分子鎖コンフォメーション解析
[ 研究代表者 ]
山崎裕一
東京大学
大学院工学系研究科
准教授

研究内容

DNA鎖が膨潤状態から凝縮状態へ変化するDNA凝縮転移は、コンフォメーション解析の視点からは光散乱や透過電顕観察などを用いて古くから研究されており、近年は遺伝子治療との関連もあり多分野から注目を集めている現象である。従来、この転移が単一DNA鎖で生じるか複数のDNA鎖で生じるかの区別が不明瞭であったが、最近になって蛍光顕微鏡下で単一DNA鎖の凝縮転移の解析が行えるようになり、単一鎖レベルでは不連続体積相転移を生起することなどが判ってきた。しかしながら、転移領域でのコンフォメーション変化と荷電状態変化との相関に関する研究は少なく、より詳細な転移の特性解析が待たれている。そこで本研究では、荷電状態を反映するDNA自由溶液電気泳動をコンフォメーション解析に優れた蛍光顕微鏡下で行うことにより、DNA凝縮の転移機構解明を目指す。

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空間拘束効果を利用したソフトマターの微空間レオロジー
[ 研究代表者 ]
藤井修治
長岡技術科学大学
物質、材料系
助教

研究内容

メソスケールの秩序構造を形成するソフトマター系が示す流動誘起型構造転移は、著しい粘弾性特性変化を伴って生じる。リオトロピックラメラ相が示す流動誘起オニオン相形成はその典型例であり、ずり速度の増加によってshear-thickeningからshear-thinning挙動へと変化することが知られている。我々は、これと同様の粘弾性挙動変化が、空間拘束効果によっても誘起されることを見出した。このことは空間拘束効果が秩序相構造形成・物性制御の新たなパラメータとなることを示唆する。本研究ではリオトロピックラメラ相が示す流動誘起型オニオン相に着目し、空間サイズのみを変調することで得る空間拘束効果を“静的拘束場”、系内にドープしたゲスト成分とラメラ間の相互作用により誘起される効果を“動的拘束場”として位置づけ、オニオン形成・破壊過程について空間拘束効果の発現機構を明らかにすることにより、空間拘束を伴うソフトマターのメソ構造体の微空間レオロジー概念確立を目指す。

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脂質類似構造を有するブロック共重合体が形成するミセルネットワークの構造転移
[ 研究代表者 ]
安中雅彦
九州大学
大学院理学研究院化学部門
教授

研究内容

本研究では、脂質類似構造を有する両親媒性高分子における温度などの外部環境、せん断流、更には少量のゲスト成分の添加等の物質場など広義の外場による秩序構造転移を対象とし、@外場により誘起される様々な秩序構造相転移を明らかにすると共に、A外場により本来の熱平衡状態から離れた非平衡状態に置かれた系が、もとの熱平衡状態とどのようなパスで結び付けられているのかを解明することで、メソスコピック構造制御のための新しい方法論の確立を目指す。

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ブロック共重合体のエピタキシャル構造転移に伴う三次元構造・ダイナミクスの解明
[ 研究代表者 ]
陣内浩司
京都工芸繊維大学
工芸科学研究科
准教授

研究内容

本研究は、流動・電場などの外場の印加や温度・圧力などの環境変数の変化に伴うブロック共重合体の構造-構造転移(Order-order Transition,OOT)を、最先端の透過型電子線トモグラフィー法(3D TEM)により3次元的な実像として捕らえ、その3次元構造とOOTのダイナミクスを明らかにすることを目的とする。

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液晶エラストマーゲルのネットワーク構造と相変化のダイナミック
[ 研究代表者 ]
甲斐昌一
九州大学
工学研究院
教授

研究内容

膨潤させた液晶エラストマーゲルは、基礎物理的に非常に興味深い力学特性、 相変化を呈する。すなわち、温度変化とともに、本来、ネマチックと等方相しか もたない物質が複数の構造変化を起こし、かつ力学的性質に大きな変化をもた らす。また同時に外力にも敏感に応答するようになる。そこで本研究では、ネ ットワークの存在に伴う液晶ゴム状・ゲル状物質の特異な相変化を中心に弾性 特性、電界応答特性などの諸物性に関する研究を行う。特に低分子液晶で膨潤 された液晶ゲルのダイナミックスと相構造の研究から液晶エラストマー特有の 電気的・力学的性質の起源を明らかにする。

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ブルー相などの3次元秩序を有する液晶系の秩序構造とダイナミクスに関する数値計算
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
福田順一
産業技術総合研究所
ナノテクノロジー研究部門
研究員
米谷 慎
産業技術総合研究所
ナノテクノロジー研究部門
グループリーダー

研究内容

コレステリックブルー相やスメクチックブルー相などの、3次元秩序構造を有する液晶相の平衡、非平衡の性質、およびそれらの性質の起源を、連続体シミュレーション、および分子動力学シミュレーションにより明らかにするのが、本研究の目的である。連続体シミュレーションの立場からは、液晶の3次元秩序を記述するのに必要な配向秩序、並進秩序、位相欠陥、光学異方性などの要素を包含したモデルの構築を行ない、3次元秩序構造の熱力学的な性質、および秩序形成、構造変化のダイナミクスを明らかにする。分子動力学シミュレーションの立場からは、3次元秩序構造と分子構造、ならびに分子間相互作用との関連、さらに外場、あるいは力学的変形による構造変化の微視的な起源を調べる。ブルー相の電場応答、ゲスト成分によるブルー相の安定化のメカニズム、およびそれらの相における配向秩序と並進秩序の共存のメカニズムの解明、などを具体的な目標とする。

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A03:非平衡構造のダイナミクス(公募研究(2007-2008))

荷電コロイドの電気泳動における多体効果による不規則な粒子運動の起源に関する研究
[ 研究代表者 ]
荒木武昭
京都大学
大学院理学研究科
准教授

研究内容

電気泳動測定は、荷電粒子(コロイド・タンパク質・DNAなど)のキャラクタリゼーションにとって有用な手段であり、古くからその基礎付けとして国内外で理論・数値計算による研究が広くなされてきた。しかしながら、一粒子に限っても粒子・イオン場・流れ場などを考慮しなければならず、未だわかっていない点も多い。さらに、多粒子系においては静的な静電相互作用の他、流体力学的相互作用といった動的な相互作用も考慮しなければならず、その重要性に拘らずほとんど研究されていないといっても過言ではない。本研究の主な目的は、我々が開発した流体粒子ダイナミクス法を用いて、電気泳動下において観測した荷電粒子の不規則な運動の起源を明らかにし、それを抑制する手法を開発することである。系を記述する変数として、粒子濃度・電荷量・イオン濃度・印加電場強度などが挙げられるが、それらの粒子運動に対する依存性を詳細に調べ、それを軸にした非平衡相図を作成する。

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自己組織性ポリペプチドと脂質二重膜相互作用の直接観察と動力学的解析
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ] [ 研究分担者 ]
瀧口金吾
名古屋大学
理学研究科
助教
木下 専
京都大学
医学研究科
准教授
梅田民樹
神戸大学
海事科学部
准教授

研究内容

脂質二重膜は両親媒性リン脂質が水溶液中で形成する準安定な自己集合体である。細胞においては脂質二重膜の直下に種々のポリペプチドが集積しており、これら2大ソフトマターの物理化学的特性によって膜の曲率やトポロジーが規定される。特に、自己集合性を併せ持つリン脂質親和性ポリペプチドや生体膜の裏打ち構造を構成する細胞骨格系蛋白質は脂質二重膜に形状変化を誘発したり、逆に安定化したりすることで、細胞運動、細胞質分裂、エンドサイトーシスなどの重要な生命現象に必須の役割を果たしている。本研究においては、人工脂質膜小胞(リポソーム)と、自己組織性を併せ持つ膜作用性蛋白質(PHドメイン、BARドメイン、塩基性ドメイン等を有する蛋白質等)との試験管内相互作用を種々のイメージング手法(暗視野、蛍光顕微鏡、FRAP法)でリアルタイム観察する。これらのデータから脂質二重膜の制御機構に関する洞察を深めることを目的とする。

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光で時空間的に強制した高分子混合系の相分離ダイナミクスと新規材料の設計
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
宮田貴章
京都工芸繊維大学
工芸科学研究科
教授
則末智久
京都工芸繊維大学
大学院工芸科学研究科
助教

研究内容

本研究では、高分子混合系の相分離を熱力学的開放条件下で誘起し、形成した相分離構造とそのダイナミクスを明らかにすることを目的とする。さらに、相分離の開始と停止を熱力学的変数(P, V, T)から独立に制御できるために光反応を用いる。時間・空間的に迅速且つ正確に制御できるようにコンピュータでデザインした可変な時空間パターンを用い、系内の光反応を引き起こして相分離を誘発する。このようにして、熱力学的に安定な高分子混合系を一定の特性時間(τ)と特性長(Λ)で特徴づける外部の刺激で相分離を周期的に強制し、混合系におけるモード選択(Mode-Selection) 過程を明らかにすることにより実際の材料加工過程におけるモルフォロジー制御法の確立、さらに自己修復、自己再生などの開放系の特徴を合成高分子材料に付与する条件についても検討する。

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高分子ガラスにおける非平衡緩和機構の解明
[ 研究代表者 ]
深尾浩次
立命館大学
理工学部
教授

研究内容

ある種の物質を高温の液体状態から冷却すると、融点以下でも液体状態を保った過冷却液体状態となることがある。さらに、適当な速度で冷却すると、この過冷却液体状態から結晶化することなく、ガラス状態と呼ばれる乱れた構造を持つが分子運動性が著しく制限されたガラス状態へと「転移」する。これはガラス転移として知られているものである。このガラス状態は非平衡な構造を持ち、非常にゆっくりとではあるが、(物理)エイジングと呼ばれる平衡構造への移行を生じる。ガラス状態で観測されるエイジング過程にはメモリー効果や若返り効果と呼ばれる興味深い現象の存在が知られている。このエイジング現象は高分子、スピングラスをはじめとした多くの乱れた系で観測されており、乱れた系一般に存在する普遍的な現象であることが期待される。本研究ではソフトマターの代表である高分子ガラスに着目し、そのエイジング過程観測される非平衡緩和機構を誘電緩和測定を用いて調べる。

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可動性櫛形高分子の非平衡構造形成ダイナミクス
[ 研究代表者 ]
酒井康博
東京大学
大学院新領域創成科学研究科
特任助教

研究内容

ポリロタキサンは線状高分子が環状分子を貫いたネックレス状の超分子構造体で,環状分子は高分子鎖に沿って自由にスライドすることができ,かつ高分子を軸として回転することも可能である。ポリロタキサンの環状分子に側鎖をグラフトさせた可動性櫛型高分子(Sliding Graft Copolymer,SGC)は,側鎖のスライディング,回転により立体配置を変化させることが可能なブロック共重合体と考えることができる。この2つの新しい自由度が分子内に存在することで,従来の共有結合により形成されるブロック共重合体に比べ,外場に対しより敏感に,劇的に応答することが予想される。本研究では,SGCの構造や物性を理論・実験の両面から様々な手法を駆使して詳しく調べ,側鎖の可動性がミセル形成やミクロ相分離などの凝集挙動に与える影響を明らかにする。さらに電場・流動場等の外場下での応答を観測し,SGCの非平衡ダイナミクスについての系統的な知見を得る。

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チューブ状ベシクルを用いた外場応答性を示すエラスティカへの可塑性の導入
[ 研究代表者 ]
菅原 正
東京大学
大学院総合文化研究科
教授

研究内容

本特定領域研究において我々は、両親媒性分子が水中で構築するソフト構造体 が示す外場応答性をもつ構造形成のダイナミクスとその制御について研究を展 開する。中でも、我々が見出したリン脂質からなるチューブ状ジャイアントベ シクルに、タンパク質コラーゲンを封入したハイブリッドチューブが、10 T級 の静磁場中で特異な曲線構造(エラスティカ)を形成する現象を取り上げる。 このシステムの変形ダイナミクスの動的観測を通じ、構造体の形成について詳 しい検討を加える。この際、チューブ中にくさび状分子を共存させておけば、 磁場印加による変形によりチューブ内部に生じる膜分子の体積密度の偏りが、 くさび状分子の再配置により準固定化されるため、磁場を除いた後も、一時的 にはエラスティカ構造が保持されると予想される。このような現象を観測する ことで、非磁性の物質が、磁場に対して可塑性を追求する。

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液晶化と結晶化が競合する相分離のダイナミクス
[ 研究代表者 ]
松山明彦
九州工業大学
情報工学部
准教授

研究内容

コロイド分散系はコロイド粒子の濃度の増加につれて液体相から結晶相へ相転移する。このようなコロイド粒子をサーモトロッピック液晶分子やリオトロッピック液晶に分散させた複合系を液晶コロイドとよび、近年、新しい液晶複合材料として注目を集めてきている。これまでの理論的研究では、コロイド粒子の周りのネマチック液晶分子の配向分布に注目を集めてきたが、マクロなレベルでの相分離、モルフォロジー、力学特性などについての研究は少ない。 本研究は、統計力学的理論と計算機シミュレーションを基礎として、液晶分子とコロイド粒子の混合系における(1)ネマチック相やスメクチック相(ラメラ相)などの液晶場中におけるコロイド粒子の結晶化(FccやBcc構造)と相分離のダイナミクス(2)電場や磁場などの外場による液晶分子の配向制御と、コロイド粒子の結晶化と相分離の解明を目的とする。配向化と結晶化が競合した新しい相分離ダイナミクスの創造を目指し、液晶コロイド系の、スピノダル分解、核生成、相分離について明らかにする。

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興奮性細胞の揺らぎのダイナミクス−単一細胞解析によるアプローチ−
[ 研究代表者 ]
原田崇広
福井大学
大学院工学研究科
講師

研究内容

細胞の非線形ダイナミクスの性質を、特に長時間スケールでの揺らぎに着目して実験的に調べる。特に題材として培養心筋細胞を用い、その自発的拍動の性質をサブ秒から数十時間までの広い時間スケールにわたって調べ、細胞活動のダイナミクスに内在する揺らぎの特徴付けを行う。これまでの研究によって、単一細胞の拍動において間欠的な揺らぎが見られることが明らかになっており、本研究では、こうした特異的な揺らぎが生みだされる分子的メカニズムを明らかにすることを目標とする。以上の研究を通じて、これまで組織・器官レベルで研究されてきた心臓の複雑な拍動のダイナミクスに対して、細胞レベルからアプローチできると考えられる。また、単一細胞のスケールにおいて、非平衡条件下で生じる不安定性と熱揺らぎとの相互作用によって生じる現象の性質を明らかにすることを目指す。

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液晶光バルブにおける局所構造のダイナミクス
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
長屋智之
大分大学
工学部
教授
奈良重俊
岡山大学
大学院自然科学研究科
教授

研究内容

液晶光バルブは、ネマチック液晶、誘電ミラー、光導電体を透明電極付ガラスで挟んだ構造をしている。光導電体(Write)側に光を照射するとフォトキャリアが発生するため、電極間に電場を印加すると、光照射領域に面する液晶層にかかる電圧が増加して液晶分子の傾きが増す。液晶側に光を入射すると、光は誘電ミラーによって反射される。この光をWrite側にフィードバックすると、ある条件で液晶分子の傾き角に双安定性が生じ、その結果、フィードバック方法、光学配置に依存して、格子、準結晶、環状スポット、スパイラル、花弁状、等々、非常に多彩な自己組織化パターンが出現する。これらのパターンは外場の影響を受けて変化する。本研究では、干渉型フィードバック下での花弁状パターンと、回折型フィードバック下での局所構造に注目し、それらの自己組織化パターンの外場による変化を画像処理の手法を用いて解析する。そして、パターン形成のダイナミクスを考察する。

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A04:理論・モデリング(公募研究(2007-2008))

ソフトマター界面の理論・シミュレーション研究
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ] [ 研究分担者 ]
藤原 進
京都工芸繊維大学
大学院工芸科学研究科
准教授
十河 清
北里大学
理学部
准教授
大西楢平
東邦大学
理学部
特任教授

研究内容

計算機実験の応用において、ソフトマターの構造形成や非平衡ダイナミクスのシミュレーションは重要な課題であるが、相分離や界面トポロジー変化などの不連続界面の取り扱いで本質的な限界に達している。これは、界面ではミクロからマクロにわたる様々なスケールが混在していることが原因である。そこでは、界面の数理モデルによる遷移層の導入など、スケール適合化のスキームが必要とされている。そのため、本研究では、ソフトマター系における界面のトポロジー変化をも含めた新しいシミュレーション法の確立をめざす。具体的には、界面張力一定の分子動力学法を用いることにより、ソフトマター界面での界面張力の働き方及び要素間相互作用の変化をメソスケールで明らかにする。さらに、曲面の幾何学的理論によるスケール変換の数理解析を行い、スケール因子のみに依存するマルチスケール・シミュレーション法を確立する。

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結び目高分子のダイナミクスと高分子ネットワーク:ミクロなトポロジーからマクロへ
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
出口哲生
お茶の水女子大学大学院
人間文化創成科学研究科
教授
津留崎恭一
神奈川県産業技術センター
化学技術部
研究員

研究内容

環状高分子のトポロジーは結び目で表される。熱揺らぎの中で、環状高分子のトポロジーは変化しない。環状高分子で構成される物質のマクロな物性が高分子のトポロジーに依存するとき、これをトポロジー的絡み合い効果とよぶ。本研究では結び目の情報から出発して、トポロジーに起因する高分子物性の理解を試みる。環状高分子のシミュレーションを行い、トポロジー的エントロピー力などのトポロジー的絡み合い効果を、統計力学的および動力学的側面から解明する。さらに、高分子網目でのトポロジー的絡み合い効果を議論する。最近、高分子量の環状鎖が合成され、組織的な実験研究が可能となった。また、環状DNAの実験研究も進歩し、例えば蛍光染色された環状DNAの運動を光学顕微鏡で直接観察し、拡散定数などが詳細に測定された。そこで本研究では、環状鎖と線形鎖の拡散定数の比など、実験で測定可能でかつユニバーサルな物理量をブラウンダイナミクスなどシミュレーションで求め、実験と比較し、環状鎖模型の妥当性を検討する。

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コロイドゲルの生成ダイナミクスとレオロジー
[ 研究代表者 ] [ 研究分担者 ]
宮崎州正
筑波大学
数理物質科学研究科
物理学専攻 准教授
古沢 浩
高知工科大学
フロンティア工学教室
准教授

研究内容

コロイド分散系は、強い引力相互作用や高密度の条件下で、ゲルやガラスといった準安定構造を形成する。高密度の極限ではコロイドガラスとなり、低密度・強い引力(低温)の極限ではコロイドゲルとなる。コロイドゲルもガラスも、特別な秩序構造を持たないにも関わらず、普遍的なスローダイナミクスを示すことが共通点である。では、その中間の密度領域では、何が起こっているのであろうか。コロイドゲルとガラスを統一的に理解することはできるであろうか。本研究は、理論と数値実験、そして実験グループとの共同研究により、微視的なダイナミクスやレオロジーに注目して、これらの疑問に答えることを目標とする。この系の理解は、自己集積系や蛋白質の結晶化といった、より複雑かつ興味深い問題の研究にも、貢献すると考えられる。具体的には、(a)相分離とゲル化の関係、(b)ゲルの非線形レオロジー、(c)ミクロ相分離とゲル化の三つの問題に取り組む予定である。

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大きな揺らぎの存在する媒体中での高分子挙動に関する理論的解析手法の開発とその応用
[ 研究代表者 ]
墨 智成
豊橋技術科学大学
知識情報工学系
助教

研究内容

通常の分子シミュレーション法では扱う事が困難な長距離に及ぶ大きな密度揺らぎが存在する溶液中での高分子挙動を解析する統計力学的手法の構築およびその応用研究を行う。具体的には、(1)超臨界流体中における気−液臨界点近傍での高分子 (2)二成分混合流体中における液−液相分離臨界点近傍での高分子 (3)一価および多価塩が存在する水溶液中での高分子電解質、についての研究を行う。(1)に関しては、臨界点近傍における高分子の普遍的な挙動と系固有の振る舞いの存在を示し、それらを統一的に説明する理論を提案する。(2)の系は、相互作用の組み合わせからも分かるように、(1)に比べて多様な振る舞いをする事が予想される。これを系統的に調べ、高分子挙動と溶媒和との関係を明らかにする。(3)については、一般に電荷を持った塩の効果が主に議論されている。本研究では、水粒子を露に考慮した電解質水溶液モデルを用いて、荷電高分子鎖の挙動を解析し、塩および水の寄与を明らかにする。

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