TOP > 領域概要(研究目的)

研究目的

ソフトマターの特徴

本領域研究の研究対象であるソフトマターとは高分子、液晶、両親媒性分子、コロイド、エマルション、生体物質、ガラス、粉流体などの物質群に対する総称である。ソフトマターの構成分子は比較的大きく、分子が自己集合したとき1〜100nmのナノまたはメソスコピックな内部構造が出現する点に最大の特徴がある。

ソフトマターのもう一つの特徴は、力学的に「ソフト」な応答を示し、同時に非常にゆっくりとしたダイナミクスを発現することである。すなわち、ソフトマターは小さな外場で大きな構造変化を示す非線形性と、熱平衡への緩和での著しく遅いダイナミクスを兼ね備えている。

これらの性質はソフトマターのもつ多様な内部自由度間の階層的結合に起因する。このような複雑かつ多彩な構造とダイナミクスを発現するソフトマターは「構造流体」とも呼ばれ、近年、基礎および応用の両面から非常に大きな注目を集めている。

なぜ非平衡性が重要か

非平衡性には二つの問題がある。
一つは上に述べた幅広い時間スケールにわたる多段階かつ階層的なダイナミクスである。これは異常なレオロジー的挙動などのマクロな物性に影響を与える。

もう一つは定常的な外場や流動による構造変化、あるいは、熱流、物質流による非平衡状態での自己組織的構造形成である。構造変化の典型例として、ブロックコポリマーにおけるミクロ相分離構造の流動・電場誘起配向化、液晶や界面活性剤系における流動誘起転移などがある。重要なことはこれらのメソスコピックな構造転移にともなって、物性が劇的に変化することである。

一方、近年のナノテクノロジーやバイオテクノロジーではミクロなスケールでのパターン形成が注目されている。実験的には微視的な流動や、メソ構造の外場に対する応答が精密に測定できるようになってきている。このようなミクロ非平衡系の実験の急速な進歩に対応できる理論を発展させる必要がある。

本領域研究の目的

上に述べたソフトマターの特性と研究の現状から、ソフトマターの構造形成のメカニズムを明らかにし、熱平衡状態での静的・動的性質のみならず、非平衡状態でのダイナミクスを理解することが重要な課題であることがわかる。

そのため、本特定領域は、ソフトマター物理学と非平衡物理学の融合的研究により、流動場、電場、磁場、力学場、光などの一般的外場に対する柔らかい分子集団の構造形成と、外場によってもたらされる非平衡状態を解明することを目的とする。

我々はソフトマターにおけるメソスコピック構造の制御を目指し、実験・理論・計算機シミュレーションによる構造とダイナミクスの基礎的研究を推進する。

班構成

上述の目的に向かって、ソフトマター物理、非平衡物理、レオロジー、物理化学、高分子化学のそれぞれの分野の研究者が結集し、実験、理論、計算機シミュレーションの新しい方法論、技術手法の開拓を図りながら集中的な研究を推進する。

そのために、以下の4つの班を構成する。
まず、A01「分子凝集構造のダイナミクス」班では、粘弾性や散乱測定などの実験的手法とシミュレーションなどの理論的手法に基づき、種々の高分子凝集系の構造と分子ダイナミクスについて精密な知見を得ると同時に、分子ダイナミクスと構造形成のダイナミクスのカップリングの詳細を明らかにする。さらに、このカップリングが構造形成過程における空間スケールと時間スケールの相関に与える効果を検討する。

A02「構造転移のダイナミクス」班ではソフトマターのメソスコピック構造に温度・圧力などの外部環境、光・せん断流・静電場、更には、界面での濡れや少量のゲスト成分の添加等の物質場など広義の外場を印加した時に観察される、様々な秩序構造相転移ダイナミクスを明らかにするとともに、その普遍性を示し、メソスコピック構造制御の新しい方法論の確立を目指す。

A03「非平衡構造のダイナミクス」班では、有機分子、液晶、高分子、生体高分子などのソフトマター物質が非平衡状態下で発現する非線形応答や時空間構造、非平衡ゆらぎを精密実験で検証・測定するとともに、非線形非平衡動力学に立脚し、メソスケールのトポロジー変化とゆらぎを取り入れた理論構築を目指し、階層をまたぐ非平衡構造形成の解明と制御に対する指針を与える。

最後に、A04「理論・モデリング」班では、A01〜A03班に属する実験グループおよび理論グループと共同して、実験が対象とする個別の問題に最適な理論的解析手法とシミュレーションモデルを構築するとともに、3つの班をまたぐ多階層モデルの構築を目指し、さらに新規材料設計のための枠組みの整備を行う。